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これは、わたしと

あなたの物語

伊藤千紘 (一般社団法人Spring スタッフ)

2020年12月7日

このランウェイに立つまでに、
どれほどの痛みを、哀しみを、恐怖を怒りを憎しみを絶望を覚えてきてしまったことだろう。

 

叫び出したいほどに寒かった、
切り裂かれるほどに孤独であった、
あのつめたい夜を覚えている。

 

あなたとわたしがもうすでに、
確かに生きてしまっているこの世界。

 

わたし自身のからだのぬくみ、
ともに歩むひとのぬくみを感じながら、
わたしは「今、ここ」に立っている。

 

そして、「今、ここ」に居ないひと、
ここに立っていない無数のひとびと、
その涙のこと、その痛みのこと、そのぬくみのことを、
想っています。

 

わたしはここにいる。

 

あなたは、どこにいるの?


時にくずおれ、涙し、身体中から血を流しながら、
私たちはそれでもなお、立ち上がる。歩いてゆく。

 

小夜鳴き鳥たちの声がする。
途切れとぎれに紡ぎ出される声が、語りが、叫びが、
いつしかうつくしい旋律=音楽にかわるとき。

 

私たちの声は、もう途切れない。
私たちの歩みは、もう止まらない。

 

これは、わたしの物語。
わたしと、あなたと、
あなたの大切なひとのための物語。

 

語りが世界を変える瞬間に、
私たちは立ち会おうとしている。

 

あのとき、ついに上げることのできなかった声が、
「今、ここ」に顕れる。

 

あなたの耳に、どうか届きますように。

公演への想い 仮屋浩子: テキスト
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